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設立の経緯


社団法人日本精神保健福祉士協会の
認定成年後見人ネットワーク「クローバー」の設立にあたって

社団法人日本精神保健福祉士協会 竹中 秀彦
(2010年3月31日掲載)


1.「クローバー」設立までの経緯

 日本で新たな成年後見制度がスタートしていよいよ10年目を迎えます。

 昨年ようやく本協会も、「クローバー」として第三者後見人を送り出すことができました。同じ社会福祉専門職である(社)日本社会福祉士会「ぱあとなあ」に遅れること約10年、その経過をここに振り返りたいと思います。

 1999(平成11)年の民法改正を経て、2000(平成12)年4月から新しい成年後見制度がスタートしました。本協会は任意団体当時の2002(平成14)年1月に企画部内に権利擁護委員会(以下、「委員会」)を設置しましたが、高まる第三者後見人へのニーズを背景に、委員会の検討課題のひとつとして成年後見人養成が掲げられたのです。

 しかし、本協会理事会において成年後見人養成に関して、「“自己決定を尊重する精神保健福祉士”と、“本人の代理で判断や決定を行う成年後見人”の特徴は相反するものであり、事業実施には慎重であるべき」という意見と「精神障害者本人の権利を擁護し、その自己決定を最大限に尊重しつつ関わる成年後見人には、精神保健福祉士の専門的力量の活用が求められている」という意見があり、具体的に着手するまでに慎重な議論を重ねてきました。

 現状を把握する目的で、委員会では2003(平成15)年に、構成員を対象として日常の「金銭・貴重品管理と成年後見制度に関するアンケート調査」を実施しました(結果は機関誌「精神保健福祉」Vol.35/No.1/通巻57号(2004年3月25日発行)及びVol.36/bQ/通巻58号(2004年6月25日発行)に報告記事掲載)。そこでは、医療機関、地域の福祉サービス事業所を問わず、金銭の管理などの代行業務が行われている実態や、制度の周知はなされているが活用が不十分である点などが明らかになるとともに、制度政策の拡充に対する高いニーズが確認されました。

 調査に寄せられた意見の一端をご紹介すると、最も多かったのは、成年後見制度に対する不満や改善を求める声(例:利用料や診断書・鑑定にかかる費用が高すぎる。申し立てから決定までに時間がかかりすぎる。)で、次に、援助者自身の知識不足(例:制度やシステムを充分に理解していないため、利用をためらってしまう。説明・援助がうまくできない。)が挙げられました。その他、適当な後見人が見つからない、市町村長申し立てを行おうとしたが市町村窓口の理解が低い、医師が鑑定書を書きたがらない、または書き上げるのに時間がかかりすぎるなどの意見もありました。また、成年後見人養成研修が実施された場合に、受講を希望するか否かという質問に関して、「参加したい」という回答が31.5%、「関心がある」という回答が54.3%という結果が確認されました。

 その後、本協会は権利擁護シンポジウムの開催、社会福祉士会・弁護士会・司法書士会や家庭裁判所等とのネットワークづくりを積極的に行なってきました。そして、本協会が法人化し、成年後見制度に関する認識がこれまでの委員会活動の成果を含め、一定程度高まったことを受けて、2006(平成18)年、委員会内に権利擁護委員会成年後見人養成研修検討小委員会(以下、「小委員会」)を設置することになりました。

 小委員会では、協会として成年後見制度にどうかかわるべきなのかといった基本的な議論から、成年後見人の養成及びフォローアップシステムの検討などを改めて行いました。同年10月には東京家庭裁判所の調査官を招き、常任理事や他の委員会にも対象を拡大した勉強会を開催しました。そこでは、家庭裁判所の調査官から、第三者後見人としての本協会および精神保健福祉士への期待が語られ、ニーズの高さに関する共通認識を得ました(本協会WEBサイト新着情報2006年10月23日掲載分参照)。

 その後の小委員会では、今後の養成システムを提案するためにモデルプログラムによる研修を企画し、2007(平成19)年12月にモデル研修を実施しました。2008(平成20)年度は権利擁護委員会から独立した成年後見事業運営委員会を組織し、認定成年後見人養成研修を正式に実施しました。こうして、協会内で養成をめざしてから7年の歳月を経て、ようやく2009(平成21)年に第一号の受任が実現したのです。

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2.成年後見人養成を始めるにあたっての議論

 しかし、今も私たち精神保健福祉士(ソーシャルワーカー)が成年後見人として精神障害者の生活を支援するということに関しては様々な意見があります。

 本協会の成年後見人養成を後押しする背景のひとつとして、弁護士、司法書士、社会福祉士や家庭裁判所からの、「精神障害のある方への支援は専門家である精神保健福祉士が担ってほしい」という要望がありました。また、構成員及び複数の都道府県支部の中からも、社会福祉士の成年後見人としての活動が注目される中、本協会も早く養成を始めてもらいたいという意見も少なからずありました。都道府県によっては個別の支援の必要性はもちろんのこと、福祉専門職としての社会的貢献活動という意味も込められています。

 もうひとつは、精神科医療の歴史的「負の遺産」ともいうべきですが、契約能力が不充分な状態が長期間持続している人たちの代理行為を、当該機関やそこに所属する精神保健福祉士が担ってきており、利益相反や専門職倫理に抵触する可能性を否定できない現実があることを看過してはならないということです。

 前述の2003(平成15)年の調査では,回答した構成員の約7割が何らかの形で管理代行にかかわっているという結果が出ています。多くが積極的に管理業務に従事しているということではなく、「やむを得ず」行ってきたと回答していましたが、過去に構成員による金銭横領事件も数回起こっており、閉鎖的になりやすい医療の中に「成年後見人」として、私たちがかかわっていくことには、大きな意味があると言えます。

 さらに、成年後見人として選任された精神保健福祉士は、所属している機関を離れたところで、ひとりの専門職としての自律を求められることになります。そこには機関の利益とクライエントの利益の間で引き起こされるジレンマはありません。機関の利益を考慮する立場から解放され、純粋にクライエント中心の支援を組み立てることができるからです。しかし、今後の課題として、所属する機関での精神保健福祉士としての役割や業務を実践することと、所属する機関を離れて成年後見人の役割を果たすことの両立には工夫が必要であり、後見活動をも通じて職場での権利擁護にもさらなる精査を図っていくことも重要であると捉えています。

 一方で、成年後見人となることに対して、いくつかの疑問も提示されました。ひとつは、成年後見制度は判断能力が不十分あるいは無い人の代わりにその利益をまもる代理人が選任される手続きであり、精神保健福祉士が成年後見人になるということは、側面的支援という枠組みを超えた権限をもつこととなるという点です。とくに日常の買い物以外のすべての法律行為に関して代理権・取消権を行使できる後見類型になれば、後見人の裁量は絶大なものになります。また、被後見人に選挙権・被選挙権が与えられない点でも権利を大きく制限されます。もちろん、新しい成年後見制度は自己決定の尊重やその人の能力を最大限に活かすことを念頭において改正されており、「本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」と理念に掲げています。しかし、制度のもつ性格として、後見人がクライエントの権利を代行し、制限することもでき得る権限をもつことに対して、抵抗感を抱く人もいるのです。

 また、現行制度の課題として、判断能力を有する状況になっても決定した類型を取り消すには相当の時間と労力が必要になるなど、障害の状態が変化する精神障害者への柔軟な対応には限界があること、前述したように後見類型では参政権が制限されること、保佐、後見類型の人が医療保護入院となれば成年後見人が保護者となること、身体に侵襲する医療行為への同意や死後の問題が現行法では棚上げになっていること、監督人制度にもまだ課題が残っていることなどが挙げられます。

3.成年後見人を養成していくということ

 以上のような成年後見制度や後見人養成に関する様々な意見を勘案し、慎重な議論を重ねた結果、ようやくここまでたどり着いたというのが実情です。この間の「“自己決定を尊重する精神保健福祉士”と、“本人の代理で判断や決定を行う成年後見人”の特徴は相反するものであり、事業実施には慎重であるべき」という意見と「精神障害者本人の権利を擁護し、その自己決定を最大限に尊重しつつ関わる成年後見人には、精神保健福祉士の専門的力量の活用が求められている」という、ソーシャルワーカーとしての役割・機能と成年後見人の役割・機能には異なる側面がありますが、障害当事者の人権がいかにすればより守られるのかということを真摯に考えるということにおいていずれも本協会が大切にしなければならない視点です。

 本協会の前身である日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会の活動を根本から揺るがせた「Y問題」の反省の上に、私たちは「クライエントの自己決定の尊重」「当事者の立場に立つ」という基本姿勢を語り継いできました。だからこそ、判断能力が不十分な精神障害者の後見人としての活動を担うのに最もふさわしい専門職は、私たちなのではないでしょうか?

 一方、既に本協会の構成員に限らず、精神保健福祉士が成年後見人を受任している例は増えつつあります。専門職としての認知の高まりと精神障害者への支援における専門性発揮の必要性から、全国各地では都道府県協会に対して家庭裁判所からの人材紹介依頼や受任依頼も行われつつあります。このような背景を踏まえ、本協会がより丁寧な関わりと当然に有するべき倫理観を常に再確認し、相互批判や相互研鑽の場を提供することは、本資格の信用失墜の防止であるとともに、社会からの要請に応えることにも通じます。本協会内に認定成年後見人養成研修を位置づけ、認定者には所定の義務を含む一定の規程を設けることは、専門職団体としての責任を果たす姿勢でもあります。

 また、個別の生活課題に関して、自己決定をどこまで尊重するのか、あるいは尊重できるのかは、個々人およびその人を取り巻く環境によっても異なってきます。身上を配慮することは後見人の義務であり、本協会の倫理綱領にも「クライエントが決定することが困難な場合、クライエントの利益を守るため最大限の努力をする」という規定があります。その「最大限の努力」の中身を今後の実践によって明らかにしていくことも課題のひとつだと言えます。

 現状において、成年後見制度は万能なものではありません。依然、財産のある人のための制度という旧来の特徴を残していますし、人権をまもるべき立場にある成年後見人が、その権限の強さゆえに人権を侵害してしまう可能性も否定できません。だからこそ、他の職種が担っている後見業務に不満を抱くだけではなく、自分たちの実践を通して、成年後見制度がもっと柔軟に活用できる資源になるよう、本制度の活用に参画し実践を積み上げるところからその変革の必要性を訴えていくことも重要な課題であると考えます。また、その実践を通して、精神保健福祉士としての倫理観がさらに磨かれていくであろうことを期待し、本事業を展開していきます。

 構成員のご理解とご参加をお願い申し上げます。

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